【スワドク】 -3- ウクライナに垣間見える開戦前夜

2022-02-18

第一次世界大戦前夜を彷彿とさせるウクライナ情勢、ウクライナをめぐる地政学的リスクが高まり緊張感が強まっている。

第一次世界大戦の開戦研究の本としてヨーロッパやアメリカで引用されているとして佐藤優氏が紹介された『夢遊病者たち1』(クリストファー・クラーク著小原淳訳 みすず書房)を読んだ。何ら必然的ではなく、実際には「起こりそうもなかった」との著作もある中で、夢遊病にかかったかのように「いかにして」戦争に突入していったのかをイギリス、フランス、ドイツ、セルビア、ロシアなどの多数の資料を渉猟し、緻密な考証を経て、19世紀末から戦争勃発の1914年7月まで、ヨーロッパが第一次世界大戦に突入する過程を見事に浮かび上がらせた第一次世界大戦研究の決定版である。 

本書は3部で構成され、第一部は、その反目によって紛争に火をつけた二つの敵対者、セルビアとオーストリア=ハンガリーに焦点を絞り、両国の相互関係をサライエヴォでの暗殺前夜まで辿る。第二部では、四つの章で四つの問い、すなわち、いかにして対立する陣営へのヨーロッパの分極化が生じたのか、いかにしてヨーロッパ諸国の政府は外交政策を生み出したのか、いかにしてバルカン地域がかくも巨大な危機の舞台となったのか、そしていかにしてデタントの時代に入っていくと思われた国際体制が全面的戦争を作り出したのか、という四つの問いを論じている。

第三部は、サライエヴォでの暗殺で始まり、7月危機そのものの物語を提示し、主要な意思決定者たちの相互関係を考察し、危機をさらなる局面へと導いた憶測や誤解、決定を明らかにしている。オーストリアのハンガリー帝国の皇太子夫妻が反オーストリア運動結社「黒い手」の1人であったセルビア人によって暗殺されるというサラエボ事件が引き金となって第一次世界大戦が起きた程度の歴史観しかない私にとって非常に読み応えのある本でした。

100年以上前の20世紀初頭、フランスを除くイギリス、ドイツ、イタリア、オーストリア=ハンガリー、ロシアといった主要な国家が君主制を敷いていた時代において多くの登場人物がまさに夢遊病者のごとく意図せず戦争へと進む姿が捉えられている。その姿と君主制という国家体制が変わっているものの、対象国が変わっていない現代が重なる姿は、第一次世界大戦開戦前夜を垣間見ているようで興味深いものがあり、本書が広く読まれている所以かと思われる。登場人物や位置関係を確認するため年表と地図が手放せないものの、歴史や地政学リスクに興味のある方にはお勧めの1冊である。

そして、プーチンをはじめ各国の首脳が本書のように意図しないなかで、戦争に突入するといった事態に陥らないよう最後の一歩を踏みとどまることを切に願う。

シニアパートナー 諏訪 博昭 (経済学博士・中小企業診断士)